前回(こちら)はアメリカのビジネス社会における一般的な振る舞い方や握手の仕方のコツについて書きましたが、今回はもう少し詳しく、イベント時の振舞い方と、話したい相手に対するアプローチやアピールの仕方について書きたいと思います。これも、私が通ったビジネススクールで学び練習を重ねたものです。

アメリカにはネットワーキングイベントやレセプションというものが有ります。同業・異業種交流会、勉強会、学会、カンファレンス、セミナーなどに加え、社内イベントや学校の入学式や卒業式に合わせて催されるパーティーなどがそれに当たります。ビジネススクールの学生であれば、卒業後の就職先を見つける為に開催される、企業人事担当者達とのネットワーキングイベントに毎週のように参加しています。

これらはほとんどの場合、立食形式であり、食事や飲み物を手に持ちながら会話を楽しむスタイルを取ります。いかにもハリウッド映画に出て来るような感じでオシャレで上流階級の集まりのようなイメージが有りますが、それはイベント次第であり、参加者の顔ぶれに大きく左右されます。どのようなイベントも同じような形式を取る為、いわば社内の親睦会で顔見知りばかり、というケースも大いに有り得ます。よって、アメリカでネットワーキングイベントやレセプションに行くということは、ほとんどの場合にそのような形式のものに立ち会うことになりますので、私の通ったビジネススクールはそこでの振舞い方について教えてくれたのです。

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まず、このようなイベントでは受付で必ず名札をくれます。事前登録していた通りに自分の名前や所属組織名を印刷してくれているのです。しっかりした型紙を首から提げたりすることもありますが、ほとんどの場合は一回きりの使いきりとしてシールタイプのものであることが多いです。ここでコツ一つ目ですが、名札は右側の胸につけましょう。ほとんどの人は右利きであり、右手を使って左側の胸につけることに慣れていると思います。しかしポイントは、自分が名札をつけやすいかどうかではなく、相手から見やすい位置に貼られているかどうか、という点。初対面の人とは必ず握手をして自己紹介をしますが、その際は右手でしますよね?左利きの人も、初対面の人との握手は右手ですると思います。その時、差し出した右手に向かって顔と目線が向くことになりますので、その延長線上に名札を位置させてあげれば、相手にとってとても見やすくなります。また、自分の名前を忘れてしまってもう一度確認しようとする人もいますので、名札がいつでも見えるように自分の右胸を開けておいてあげましょう。飲み物のグラスや食事の皿を持っていたとしても、それは左手にします。そうすると、右側の胸がいつでもあいていて名札が見やすいのです。

次に、食べ物と飲み物を取るタイミングにも注意しましょう。立派なイベントになればなるほど、美味しい食事と飲み物が用意されていますが、注意が必要です。なぜなら、そのイベントに参加する目的は、目当ての人と知り合ったり、他の参加者と有意義な会話を交わすことであったりすることだからです。当たり前ですが、食べてばかりでいると話す時間が無くなってしまいますし、美味しいお酒を飲んでばかりでも酔っ払ってしまいます。極論を言えば、そのようなイベントでは、食べなくても飲まなくても全然良いのです。上述した通り、自分の名札を見やすくさせたり握手をしたりする為に、右手は必ずあけていますので、そもそも左手片手ではグラス一つを持つのが精一杯。お皿を持ち続けることは案外至難の業です。実際、私も何度もこのようなイベントに参加して来ましたが、食べること飲むことは極力避けるようにしています。しかし、私はどうしても食い意地が張っている性格なので、目当ての方との会話を終えそろそろ帰ろうかというタイミングで漸く、食べ物の有るテーブルに寄ってモグモグ頂いてから帰る、という行動パターンになっています。美味しそうな食事にどうしても我慢が出来ない場合は、最初にお腹を満たし、それから手ぶらで行動開始とします。

さて、こういったイベントに参加する目的は、くどいですが、他の参加者との会話を持つことです。ビジネスチャンスを狙って、お客さんに自社サービスを売り込むでも良し、就職先確保の為の自己アピールでも良し、ただの情報収集でも良し、自分自身の目的を明確にして参加することがとても大切ですね。ただし、だからといって目当ての人に簡単に話しを聞いてもらうことが出来るかというと、一筋縄にはいきません。そこで、エレベーターピッチというものが有効です。

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エレベーターピッチとは、文字通り、エレベーター内で目当ての人にピッチ、つまり売り込みをかけることです。例えば、貴方がとあるエレベーターに乗り込んだ時、長年営業の売り込みをかけて来た大事な顧客の意思決定者と偶然居合わせたとします。そのエレベーターに一緒に乗っている時間など、長くても20秒や30秒が良いところ。無言のままでその相手がエレベーターから降りていくのを見送るのか、それとも気さくに話しかけて会話を弾ませることに成功し、あわよくばそのまま商談に繋げることが出来るのか、貴方はどちらを望みますか?もちろん後者を望まない人はいないと思いますが、その短時間での売り込み方法のことを、エレベーターピッチと呼びます。

ようやく話すチャンスが巡って来た時に、20~30秒という短時間で自分の用件を相手にしっかりと伝え切ることが大切です。よって、話したい内容は事前に用意しておきます。20秒パターン、40秒パターン、60秒パターンなど複数パターンを用意しておくこともオススメです。

自分が話す内容は基本的に以下の通り:

  • 自分の名前
  • 所属組織
  • 今は何をしているか
  • これから何をしたいか
  • その為に相手から欲しいサポート(具体的に)
  • そして、それがその相手にとってなぜメリットが有るか

これらを間髪入れずにバーっと一気に喋り通します。相手に考える隙を与えず、相手はウンウンと頷いていれば良いだけ。20秒ほどで伝え終わった時に、相手が興味を持ってくれなかったらそれまでであり、次の手を考えなければいけませんが、興味を持ってもらえれば、「うん、それは面白いね、もって聞かせてくれないか?」と会話が続くことになります。エレベーターピッチのメリットは、当然ながら相手からのサポートを引き出すことに有りますが、何よりも、短時間で伝えたいメッセージが完結にまとまっていることで、「聞く側である相手の時間を無駄にしない」ことにもなっているのです。ビジネスシーンでキーマンとなるような人は限られており、そのような人の周りには大抵、会話のチャンスを求めて多くの人が長蛇を成しているもの。皆、自分の話を聞いてもらおうと必死にアピールをするのですが、長々と話して相手の時間を割いてしまうのは喜ばれたものではありません。その中、たった20秒でメッセージを伝え切ることが出来れば、相手の時間を尊重していることにもなり、「お、この人は他の人たちとは違う」と感じてもらうことも出来るのです。

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ビジネススクールでは、50~60人ほどの学生たちで2つの輪(内側と外側)を作って練習しました。まず、最初に目の前にいる相手に対して自分が30秒でピッチします。まるで初対面かのように、笑顔で明るくしゃべりまくるのです。30秒経過すると合図が有り、こんどは相手が自分に30秒でピッチします。そしてまた30秒すると合図が有り、内側の輪の学生たちが一つローテーションをし、今まで自分の一つ左前にいた学生が自分の目の前にやって来ます。そしてまた合図とともに自分が相手に30秒でピッチをし、次の30秒で相手が自分にピッチをする。そしてローテーション。これを延々と繰り返して行くのです。私はこのようなことを日本でやったことが無かったので最初は緊張しましたし恥ずかしくて恥ずかしくてたまりませんでした。自分の練習相手が日本人クラスメートになったことも有り、笑いそうになりながらも二人とも本気で相手にピッチをかける練習をしました。アメリカ人やインド人クラスメートの中には口八丁手八丁に上手にピッチをかける人もいて、とても勉強になりましたが、多くの人は慣れておらず、皆で練習して一緒に苦手意識を克服して行きました。

日本ではなかなか無い機会かもしれませんが、色んなシーンで意外と使えるスキルですので、皆さんもどうぞお試しあれ。

では、have a good one!