MBA

ダイバーシティーとカルチャーバディー

過去3回とMBAネタを書いてきましたが、これからも暫くビジネススクール留学時の経験を書き続けて行きますので、お付き合い下さい。

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私が通ったアメリカのビジネススクールには、色んな国から学生が集まっていました。もちろんアメリカ人学生が最も多いのですが、一学年の中で約4割はアメリカ国外から学びに来ている学生でした。地元アメリカ人学生と区別する為に、こういうアメリカ国外から学びに来ている学生のことを「International Students・インターナショナルステューデント」とか、略して「インターナショナル」と呼んでいました。日本人である自分ももちろん、インターナショナルステューデントでした。

自分が通った学校のインターナショナルステューデントの顔ぶれですが、最も多かったのはインド、中国、韓国、そして日本。次に多かったのは、タイ、台湾、ブラジルといった国々でした。なんとなく、それぞれの国の経済規模や成長力に沿って席の数が割り当てられているようで、興味深かったです。また意外だったのは、ヨーロッパからの学生が少なかったこと。イギリスやスペインからの学生もいたのですが、アジア圏からの留学生の数に比べると、圧倒的に少なかったのです。これは、ヨーロッパにも教育水準の高いビジネススクールが数多く有ることから、わざわざアメリカまで来る必要が無いことが理由ではないかと想像します。

このように出身国が異なる面々を数多く受け入れることで、多様性、ダイバーシティを校内に整えているのですが、これは将来、学生達がグローバルなビジネス経営に携わるであろうことを前提として構築されている仕組みです。例えば、MBA時代の2年間で色んな国の学生と交流を深めておけば、商習慣の違いを理解出来るようになるし、世界中に自分のネットワークを持つことも出来るようになるのです。そうすると、将来、母国の外でビジネスをする時に感じるハードルがグッと低くなることは間違い有りません。というわけで、MBAの2年間では、常に目の前に自分とは出身国が違う学生がウヨウヨいることになり、それが段々と日常的な普通のことと感じられるようになって来るのです。

自分も旅行は大好きですし、新しい文化に触れることも大好きなので、その状況に最初はとても興奮していました。色んな国の学生と食事や飲みに行ったり遊びに行ったりすることが、とても楽しかったのです。しかし、それだけでは済まないのがビジネススクール。本プログラムが始まると徐々に大量の課題が出されるようになり、どんなに頭脳明晰で精神的にタフな学生でも、心身の疲労が隠せないようになって来ます。そんな中、教授陣からは、あえて、グループで課題に取り組むよう指示が出て来るのです。そうすると、ただでさえ課題の量が多く、提出期限も迫っているというのに、お互いに母国語が通じないこと、母国の商習慣やビジネス常識が通用しないことなどから、議論が噛み合わずメンバー間でのストレスが高まって行きます。目の下にクマが有り頭もボサボサの学生達が深夜の学校で言い合い!なんて光景も目にするようになります。

なぜここまでさせるのか?それにはいくつも理由が有りますが、やはり一番は、一緒にただ楽しく飲み交わしているだけでは本当に相手を理解し信用するようにはなれないからでしょう。極限状態に追い込まれることで漸く、自分の心の拠りどころとなるポリシーや考え方というものが表れてくるもの。そこでやっと、意義有る議論が生まれ、相手の真意や文化背景が自分のものと異なることに気付くことが出来るのです。ただこれは本当に大変です。自分は比較的、異文化に対してオープンで好意的である方だと思っていましたが、そんな自分でも、「やってられない!」と思うような経験をしたことが一度となく有ります。そんな経験談はまた後日書きたいと思います。

このように学校側はダイバーシティー有る環境を学生の成長の為に押し付けてくるのですが、だからといって青春のラグビードラマよろしく、汗をかいてぶつかり合ったら結果的に仲良くなれるなどという単純なものではありません。それだけじゃ疲れちゃうし、心も荒んじゃいます。そこでやはり、勉強やプロジェクト以外でも一緒に時間を過ごせるような仕掛けが必要で、その一つがカルチャーバディーという課外活動でした。

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本プログラムが始まるオリエンテーション初日、授業の仕組みやスケジュールの説明が一通り済んだ後、最後に学校側のプログラム運営スタッフの一人が学生達に言いました。

「私達の学校にはカルチャーバディー (カルチャーは文化、バディーは友達という意味) という学生主催の課外活動が有ります。これは勉強など本プログラムとは関係無く、学生同士の交友を深める為のものです。異文化出身者同士が進んで一緒にご飯を食べに行ったり遊びに行ったり出来るよう、学生同士のマッチアップをするのです。そのマッチアップをお願いしたく、誰かボランティアとしてリードしてくれる人はいませんか?」

バッ!と手を挙げてから周りを見渡すと、手を挙げたのは自分一人でした。

クラブ活動や学生生徒会のリーダーシップポジションなど、ビジネススクールには非常に多くの成長機会が転がっていると入学前から聞いていました。様子見をすると折角のチャンスが逃げちゃう為、出来るだけ数多くのことに挑戦しようと決めていたので、カルチャーバディーの仕事が何だかよく理解しないまま、目をつぶって赤信号に突っ込む気持ちで手を挙げたのでした。

最初の仕事は、クラスメート全員にメールを送り、参加意思の確認、参加したい場合は名前、出身地、入学前の職業、卒業後の希望進路、趣味などを聞くこと。早速、メールで「皆でカルチャーバディーに入ろうぜ!楽しいよ、きっと!」と送ったのですが、もらえた返事が少ないこと。一学年で280名ほどいたのですが、返事をくれたのは10名程度でした。皆、MBA生活は異常に忙しくなると聞いているので、本当に役に立ちそうなことにのみ参加しようと慎重になっているのでした。仕方ないので、まずはその10名程度でマッチアップをし、バディー同士で気軽に学校のカフェテリアでランチを一緒に食べることを勧めました。一緒に飲みに行くイベントも企画するなど工夫をしていると、とても喜んでもらえ、主催者として嬉しく感じました。

もっと多くのクラスメートに参加して欲しいと思い、一人で声をかけていたのですが、反応はイマイチ。そこで既に参加しているメンバーから身近なクラスメートを誘ってくれるようお願いをしたところ、「自分も参加したいけど、どうすればいいの?」というメールが次々に届くようになり、驚きました。なんと、既に参加しているメンバーが「なかなか楽しいぜ~」と言うことによって、口コミ効果が発生していたのでした。更に発見したことこととして、その口コミ効果は、時間の経過と共にどんどんとスピードで早くなっていくということ。最初は皆、様子見をしているのですが、周りに参加者が増えれば増えるほど、自分も急いで参加するようになるのです。それは現在のソーシャルメディアを使ったマーケティングにも見られることですが、「口コミ効果は世界共通」と学んだ出来事でした。ちなみに口コミのことを英語では、「word of mouth (ワード オブ マウス)」と言います。直訳すると「口による言葉」であり、人の口を通じて広がっていくという意味で日本語と感覚が似ていますよね。

こうして参加人数が増えていき、ついに学年の過半数を超えました。それら百数十人が自分宛てにメールを送って来るのですが、そのバックグラウンドの多様さのすごいこと!色んな国からの出身者がいることは書きましたが、入学前の職業だけ見ても本当に色んな人がいるのです。営業、技術者、財務、コンサルティングなどという一般的な職種のみならず、軍人、医者、先生、そしてオペラ歌手やマジシャンまでいるのです。まるでビジネススクールにいるだけで、世の中に有る全ての職業の情報が手に入るような環境が成り立っていました。これこそまさにダイバーシティーの大きなメリットであり、学校の採用担当者が苦心して全世界から揃えた学生達なのです。

自分のバディーは、インド出身の医者Sでした。彼女はインドで医学学校を卒業し外科医としてのキャリアをスタートした後、アメリカに渡って外科医として働き続けました。とても知的でユーモアも有り、誰とでも楽しくコミュニケーションの出来る、素敵な人です。ある時に彼女の履歴書を見せてもらうと、医学学校時代の成績も優秀だったようで、「ナントカ賞受賞、カントカ賞受賞」といくつも書いてありました。「よく分からないけど、なんかすげーなー!」と思い、「なんで医者辞めてビジネススクールに来たの?」と聞いてみました。すると、ばつが悪そうに下を向きながら教えてくれました。「血を見るのが苦手なの」と。なんとまあ、血が苦手とは外科医には致命的。みんな色々有るんだなぁ、と思ったのでした。そんな彼女、卒業後も医療業界で働き続けています。医者としてではなく、在学時に培った知識とスキルを使ってビジネス領域で活躍しています。医者という職業は辞めても、患者を一人でも多く救いたいという情熱は今でも色あせていないのです。

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自分のMBA生活の最初のリーダーシップは、このカルチャーバディーの仕事でした。この後、このカルチャーバディーのお陰で色んな経験をして行くことになります。

ではまた次回に。ごきげんよう~

 

学校の校内には数々の国旗が掲げられ、学生や職員の出身国が尊重されていました。