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MBAで学ぶ倫理の授業 Ethical Leadership

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前回の投稿 (こちら) でコアカリキュラム期間の忙しさに圧倒され、授業内容を消化し切れなかったことを書きました。しかし、クラスメートには毎回しっかり予習復習をこなし、授業中に質の高い発言をするのみならずテストでも高得点を叩き出す超人達がいました。中でも日本人同級生のWは別格で、卒業式では学年成績上位5%に入ったとして表彰を受けていました。他の受賞者はアメリカ人とインド人のみでしたので、非英語ネイティブとしてはただ一人 (インドの高等教育は英語で為される)。並々ならぬ努力と工夫をもって手にしたものです。同じ日本人として大変誇りに思いました。

コアカリキュラム期間中の必修科目13科目の一つに倫理の授業が有りました。ビジネススクールで学ぶ科目といえばファイナンスやマーケティングなど、ハードスキルのイメージが強いものですが、倫理も大事なものの一つです。実際のビジネスには会計処理や労使関係など、白黒の判断をつけることが難しい局面が少なからず出現します。何かグレーな問題に直面した際、「利益偏重は良くない!」と正論を唱えたところで、お金を稼がなければ会社自体が立ち行かない、ということだって有るでしょう。逆に利益ばかりを追い求めていてもバランスが取れないことは時代が証明しています。

そんな時、正しいことと間違っていることを比較して決断することは難しくないでしょう。ですが、本当に難しい判断というのは、「どちらの選択肢も正しいように見える」場合に起こり得るのです。そして「何時如何なる場合も真に正しい答え」というものは世の中に存在しない為、「自分はどう考えるのか?」ということを深く考える必要が有ります。では、どのように考えたら良いのか?授業ではその思考のコツを教えてくれました。

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授業はまず、倫理学に於ける主要フレームワークを学ぶことから始まります。その主要フレームワークは以下の3つです。

主要フレームワーク

1.実利主義によるアプローチ Utilitarian approach

決断を下した結果として得られる実利を基準にするもの。不利益を被る人も中には出て来るかもしれないが、出来るだけ多くの人にとって利益となるような決断をすべき、と考えることです。つまり、最大多数個人の最大幸福を狙うのです。言い換えるならば、多数派の意見を尊重し、少数派の意見は犠牲にする、といったニュアンスですね。結果の為には手段を選ばない、ということでもあります。

2.形式主義によるアプローチ Formalist approach

形式主義は結果にとらわれることなく、「真に正しい」ことを追い求めます。それは、全世界で普遍的に正しいと考えられていることを基準に物事の判断をするのです。例えば、「自分がやられて嫌なことは、他人にもしてはいけない」とか、「嘘はついてはいけない」「盗みをしてはいけない」「人類は皆平等」といったようなもので、理想を追い求めるのです。義務や規則にのっとって取る行動とも言えます。べき論や正論のことですね。

3.徳倫理学によるアプローチ Virtue approach

これは「自分」に焦点を当てます。他人への影響や、べき論ではなく、「自分はどういった人間か」「自分は何の為に生きているのか、何の為に働いているのか」「自分が個人的に信じていること、大切にしていることは何か」ということが基準になって、物事の判断をします。まさに、鏡の中の自分と対話をして決断を下すアプローチです。

フレームワークの限界

倫理的に判断が難しい局面では、これらの考え方・フレームワークを使うことが決断の助けとなります。しかし、これらどれ一つをとっても完全ではないところが現実の難しさ。

例えば、1.実利主義の場合、結果を得る為に手段を犠牲にするのですが、「遅刻をしないよう、少しぐらいスピード違反をしても良い」「コミュニケーションを円滑にする為、面白くもないジョークに合わせて笑う」といった程度の軽いものから、「貧しくて食費が賄えない中、自分の子供に食べさせる為に食べ物を盗んで来る」「自分の家族を守る為、敷地内に侵入した泥棒を撃ち殺す」といったことを可能にしてしまいます。

また、2.形式主義であっても、「正しいことをしなければならない」と考えるあまりに、「カンニングをしたクラスメートについて、教授に告げ口をする」「親友の伴侶の浮気現場を目撃してしまった為、親友にそれを報告する」「兄弟であっても、彼らが犯罪を犯した場合には警察に自首させる」といった行動を取ることを求められてしまいます。

そこで上記に考えを巡らしたら最後は、3.徳の倫理にのっとり、「自分が心から大切にしていること」を考え抜き、勇気を持って決断し行動することを求められるのです。その結果がどうなるかなんて分かりません。分からないながら、自分の価値観を信じるしかないのです。しかし、そうやって決断を下した時、その結果が自分にフィードバックをくれますし、その行動こそが自分の価値観を強め更なる成長を促してくれるのです。これを英語ではDefining momentと言い、自分の人生を左右する分岐点となります。そこで決断を下さなければ、先送りするだけです。

しかし、それならば最初から周りのことなんて気にせずに自分の価値観だけで判断をすれば良いのだろう、と考えてしまいますが、現実はそう簡単ではありません。なぜなら、その「自分の価値観」とやらが、とんでもなく疑わしいものであるからです。「え、なんで?自分の価値観は自分で分かってるよ!」と思うものですが、そうでもないんです。

例えば、このビデオを見てみて下さい。ビデオ画面上の中で、50秒間に合計21個の変化が起こっています。皆さんはいくつ気付くことが出来ますか?

ビデオリンク:https://www.youtube.com/watch?v=ubNF9QNEQLA

このビデオを見て言えることは、結局のところ、人間は「自分が見ようとしているものにしか気付くことが出来ない」ということです。どんなに思考を広げて考えようとしても、そこには限界が有ることを認めないといけないでしょう。自分が今持っている価値観は偏っている可能性が大きいのです。

他にも、会社に定められた売り上げ目標達成に向けて邁進していたばかりに気付けば顧客にとって不要なサービスまで売りつけていたとか、上司から「今期だけ、来期に修正するから」と言われて計上した不適切な会計処理がいつの間にか雪だるま式に膨らんで会社の財務状態を傷つけていたとか、「良かれと思ってやったことが思わぬ結果を招いてしまった」ということも発生します。要するに、よほど気をつけないと誰しもが知らず知らずのうちに自分の手で過ちを侵してしまう危険性が有るということです。

それではどうすればこのような状況を回避出来るかということで、意思決定時に以下のポイントを意識することが大切です。

意思決定時に必要なこと

  • 自分にとって本当に大切する価値観や軸を確認する
  • 想像力を拡げ、「他に選択肢は無いか?」「もし、〜だったら?」と、自分の考えること以外にも可能性が無いか巡らせる
  • 直感で「何かがおかしいかもしれない」と少しでも感じるなら、それはなぜか、自分が腹落ち出来るまで理由と解決方法を考え抜く
  • 事実を集め、事実にもとづいて決断をする
  • 主要関係者が誰かを考え、それぞれの立場から物事を見てみる
  • 決断した結果が、それぞれの関係者にどのような影響を与えるか考える
  • 最後にもう一度、意思決定の軸にすべき考え方を自分自身の中で確認する
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これらの基本を学んだ上、倫理的な判断が難しいビジネスケースを元にクラスでディスカッションが繰り返されて行きました。その中の一つが、上司と部下による実績評価についてでした。会社で働いている方であれば、半期や通期に1度やる、あれです。言われてみるとその通りなのですが、そもそも実績評価では会社側と雇用者側それぞれの都合が複雑に絡み合っており、簡単に判断することがとても難しいのです。
例えば、
  • 何をもって実績とするのか?それは実利主義の観点から見ると売り上げや顧客満足度であるし、形式主義から見ると会社のビジョンへの忠誠さ、徳の倫理から考えると個々人それぞれの価値観が守られているかとか成長に邁進したか、ということです。これらをバランスさせることは一筋縄には行きません。
  • 組織全体のバランスの保ち方も難しい課題です。チームワークは無いけれど個人としての成績が良い人材をどう評価するか?少しルールから逸れてでも売り上げを上げて来た人材を罰するべきか?これらは実利主義や形式主義の考え方だけでは簡単に答えを出すことは出来ません。
  • 部下へのフィードバックの与え方にも一苦労です。厳しく言えば「自分は評価されていない」と感じてやる気を失うことも有るでしょうし、褒めてばかりいても「現状を維持出来れば高評価をもらえる」と更なる成長意欲を失うことも有るでしょう。だからといってどっちつかずになると、「ハッキリせず信頼出来ない上司」という印象だって与えかねます。
こういう難しいケースをいくつも議論することによって、「自分だったらこう判断する」という軸を少しずつ自分の中で築いて行くのです。
私が通ったビジネススクールの学生の平均就業経験年数は5年でした。もちろんもっと長い経験を持っている学生もいましたが、やはりそれくらいの就業経験では部下を持ったり、組織の意思決定に携わることは多くありません。自分も留学前までは自分一人の担当する仕事に没頭していただけでした。正直、この授業を受けていた当時も「言っていることは分かる」という程度の理解しか出来ていませんでした。しかし卒業して社会に戻ってから部下を持ち、自分で意思決定をすることを求められるようになった今、こういうことがジワジワと効いてくるんです。
意思決定というものは本当に難しい。常識や前例に頼るだけではダメだし、先送りすることもいけません。しかも、自分だけのことではなく、組織全体のことを決めないといけないので、ものすごく大きなプレッシャーを感じます。
MBA教育とはまさにDefining momentで決断を下す訓練を施す場。将来にマネジメントポジションを目指す方にとって、ビジネススクールでの経験は必ず役に立つことでしょう。

では!

 

アメリカのトップMBAを取得し、卒業後にアメリカ企業本社の幹部候補生として採用されたノウハウを紹介しています。

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ブログを引っ越しました。→https://presence-japan.com/blog/

現在、プレゼンスジャパン株式会社としてエグゼクティブコーチングを提供しています。

プロフィール
西原哲夫
西原哲夫
経営アドバイザー | エグゼクティブコーチ
慶應→住友電工→アメリカ駐在(25歳)→ノースカロライナ大MBA(30歳)→エマソン米国本社幹部候補(32歳)→日本エマソンGM(35歳)→ユーピーエス社長(39歳)→経営アドバイザー兼コーチ(今) | 2児の父親|アメリカ在住10年|表千家茶道学習者
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